21.だから君に恋をした

 

いつもの事ながら、くだらなさにザンザスはあきれかえる。

遠のく悲鳴混じりの喧噪と、真っ先に狙撃に倒れた護衛としてつけられた役立たず。(否、盾となってのことなので、全くの役立たずというわけでもないのか)

即座にスピードを上げて2発目、3発目も防いだ運転手も並走してき車窓からの銃弾に倒れた。

障害物に衝突してようやく止まった車体を、狙撃を諦め直接手を下そうと取り囲む見飽きた黒服の群れ。

今は死体となった護衛を座席の下に落とし、ドアを蹴り空けて降り立ったザンザスは暴力的なまでに輝くこの国特有の強い太陽の下で己を狙う銃口へ明らかな侮蔑の眼差しを送り、まだ幼さを残すその体躯をたわめた。それが攻撃に移る為の予備行動だと正しく見て取った襲撃者たちは、幼さを理由に侮ることなく、即座に兇弾をたたき込もうと引き金に掛けた指を動かす。が、それは叶うことなく、彼らの命はあまりにもあっけなく消え失せた。

鈍い音を立てて崩れ落ちた男たちの背後、切り裂かれた喉笛から溢れ広がっていく血溜まりに靴裏を浸して、襲撃者たちとは違う黒に全身を覆った痩身が立っていた。だがその頭上は影のような色彩とは正反対にぎらぎらと眩しい。

驚愕は一瞬。荒事に慣れ親しみ、それを生きる糧としてきた男たちはすぐさま唐突に現れた、だが確実に敵と言える第三者へ殺気と銃口を向けて群がっていく。己に押し寄せる者と、そのままザンザスへ狙いを定めた者とを冷静に観察し、あまりにも静かな殺戮を行った痩躯の人物は再び音もなく地面を蹴った。

疾駆しながらも、その腕をひらめかせ進行する先々にいる相手を屠り、ザンザスの元へとたどり着いたのはぎりぎり少年の範囲に入る年齢に見えた。

「よお゛。てめぇが9代目のガキかぁ?」

すこし掠れたような静謐な動きとはまるで真逆に粗雑な口調でザンザスの顔をぶしつけな迄に覗き込んで、屈託無く笑うその意外なほどあどけない顔は、やはり彼がその卓越した技術からはかけ離れた若輩の身だと知らせるのに十分だった。

「あ゛?」

ファミリーのボスの直系に対するにしてはあまりに礼儀知らずな態度と言葉に、少年が近づいてくる間きらきらと輝くその頭髪にじっと固定していた視線を引きはがして、ザンザスは不快を全面に押し出す。

その深紅の双眸に浮かぶ凶悪な眼光に、大抵の相手はひるむのだが、向けられた相手は自分の言動が不適切だったと悟ったのみで、一瞬困ったような顔をした後、開き直ってしまった。

「かわいくねぇガキだなぁ」

がしがしと短い銀色の髪を乱暴にかき回して、態勢を立て直しじりじりと迫ってくる大分頭数を減らした、それでもまだ多勢といえる人数に痩身がくるりと向き直った。

「う゛お゛ぉ゛い、ガキ。おとなしくそこにいろよぉ」

守るように片腕にくくりつられた剣を構えて己の前に立ちふさがるその痩躯に、ザンザスは不要だと普段のように殴り飛ばす為にではなく、別の目的の為に腕を伸ばし、捕らえたそれを力任せに引っ張った。

「っでぇぇ!!!」

思いもよらぬ方角から加えられた攻撃(?)に、彼は首を仰け反らせて、直後その苦しい態勢にもかかわらず罵詈雑言をわめき立てる。

「う゛お゛お゛ぉい゛!!いきなりなにしやがる!!この状況分かってんのかぁ!?しかもグキって!グキって音したぞぉ!!今!!」

あとからあとからわき出てくるその凶暴な音の嵐を気にした風もなく、ザンザスは自身が鷲掴んだそれをしげしげと眺める。

見た目通りに冷たいのかと思っていたのだが、短く乱雑に切られ頭部自体に近い為それほどでもなく、逆に持ち主の熱が銀色を捕らえた手にじかに伝わってくる。握りしめた毛髪は柔らかく、手触りは気に入りのシルクのリネンと同じだった。

それを心地いいと感じ、もっと触れたいと状況も忘れて引き寄せようとした所で、今までとは違った鋭い声がザンザスを打った。

「ガキ!!離せ!!」

乱暴に後頭部の髪を掴む既にごつごつとした、だが己よりも小さい男の手を振り払い、彼はザンザスを抱えて銃弾の雨から跳び退ると、捕まえた体を放り投げ、駆けだし敵のなかに跳び込んでいく。

愉しげに笑い、攻撃こそ防御だと言わんばかりに一切を切り捨て、その細長い手足を用いて貪欲に敵に食らいつき、血を浴びる。

身動きするたびに陽光を弾くその銀色は、色素の薄いザンザスの目には鈍い痛みをもたらして、毒のような物だと理解していた。それでも、それは先程と同じようにザンザスに目をそらす事を許さない。

白に近い色が自身の目の色と同じ赤に染まっていくのが、己の所有の印が刻まれていくようで、なぜか満足を覚える。

 

 

凶器よりもなお輝く物を見たのは、それが初めてだった。

 

 

 

ボスとスクのファーストコンタクト。

実は二人とも一目惚れ。(スクはボスの赤い目がきれいだなぁとか思ってる)

ボス12、スクは16。

剣帝倒してすぐ、ヴァリアー入隊したての頃

近くで仕事中だったスクが、連絡受けて救出に向かったのですが、そんなのボスにはまったくいらなかったんですよね

たぶんこのくらいの頃から、べらぼうに強いといいよ